「わざわざ」の英・中・日

中国に暮らしはじめて初めての国慶節のお休みに、現地の知り合いが私と一緒に過ごそうと、車で一時間以上かかるところからわざわざ迎えに来てくれたことがありました。
8月に来たばかりの私が、まだ現地の暮らしになじめず、連休をぼんやり過ごしてはかわいそうと心配してくれてのことです。

残念ながら私は、旅行に行こうと列車の切符を買ってしまっていたので、お誘いを断らざるを得ませんでした。あらかじめわかっていればきっとそちらに行ったのに、当時は電話も寮のとりつぎの上、私の中国語力もおぼつかず、アポなしでお迎えに来てくださったのだと思います。今思い出しても申し訳ないことです。

わざわざ迎えに来ました

お迎えに来てくださったとき、中国語がいまいちの私のために、日本語ができる知り合いに頼んでメモを準備してくださっていました。突然の来訪に、何が起きたかわかっていない私に渡されたメモには、こう書いてありました。

「国慶節を一緒に過ごしましょう。私たちはあなたをわざわざ迎えに来ました。」

言いたいことはわかるのですが、『わざわざ』という表現に引っかかりました。日本語ではこういうときに使いませんよね?
旅行の計画を立てていたために、せっかく来てもらったのにそのまま帰っていただくほかありませんでした。

本当は
「わざわざ来てくださったのに、本当に申し訳ない」
と言いたかったのですが、『わざわざ』を意味する中国語が分からず、「对不起」ばかり繰り返していました。

日本語と中国語の「わざわざ」の違い

あとから調べて理解したのですが、そのとき相手が使っていた「わざわざ」にあたる中国語は「特意、特地」という単語なのでした。確かに、中日辞典で「特意」を引くと、「わざわざ」と意味が掲載されています。

ですが、気を付けなければいけないのは、「わざわざ」には否定的な意味が含まれているということです。
しかも、肯定的な意味で使うには、行為の対象が自分ではなく相手であることも要注意です。

「わざわざお越しくださって」とは言えるけれど、「わざわざ参りました」と言うと変な感じがします。

中国語の「特意、特地」は「あなたのためにあえて、特別に~~しました」という表現でよく使います。日本人の感覚ではなじみがないかもしれません(むしろ相手に心的負担をかけないよう「ついでがありましたので」などと謙遜してしまいそうです)が、中国語ではこちらの方が自然です。

わざわざ
1 他のことのついでではなく、特にそのためだけに行うさま。
2 しなくてもよいことをことさらするさま。

ちなみに、悪意のある「わざわざ」「わざと」は中国語では「有意、故意地」を使います。
这照片是他有意留给我们看的。
この写真、わざわざ私たちに見せるために彼が置いて行ったのよ。
では、英語ではどう表現するのでしょうか?


英語で「わざわざ」

①わざわざ~~てくださる

Thank you for taking the trouble to come and help us.
コーパスを調べてみると、「take the trouble to」は、「why bother~」と同種で、「そういうめんどくさいことをわざわざする」のような、否定的な表現にむしろよく使われているように感じますが、実際のところはどうなのでしょうか。
このほか、状況に応じて「kindly」も使われているようです。

②わざわざ(遠路はるばる)来てくださる

all the way が使われたりもしているようですが、これが1対1で「わざわざ」に対応しているわけではありません。
I appreciate your coming such a long way to see me.
のように表現する方が自然なときもあると思います。

③わざわざ~しなくてもいい

「お構いなく」的なニュアンスで、Don’t botherがよく使われています。
英語には日本語の「わざわざ(=特別に気を遣って)」に相当する、スポッとうまくはまる副詞がないようなので、文脈にふさわしい表現をするのがよいようです。

たくさん「わざわざ」と書いていると、「わざわざ」がゲシュタルト崩壊し始めました。

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