昨年の紅白歌合戦で米津玄師が歌った場所としてすっかり有名になった、徳島県鳴門市の大塚国際美術館に行ってきました。
大塚国際美術館とは
その名の通り、大塚製薬グループによりつくられた私設美術館です。
展示されているものにひとつとしてオリジナルなものはないという意味で大変オリジナリティのある美術館です。
展示品はすべて陶板複製画。
大塚グループ発祥の地である鳴門市に、人の流れを止めるダム的な施設を作ろうということで、設立されたものですが、やることなすことダイナミックです。
建設地は国立公園の中なので、景観維持のために建築物の高さ制限があります。そのため、地下五階、地上三階という大きな建物はすべて山を削り取りその中に建築し、完成後に埋め戻すという方法がとられました。
陶板複製画というテーマも、オイルショックで受注が激減したグループ会社の存続と技術維持のために考えられたというのだからすごいです。そもそもこの大塚オーミ陶業という会社自体が、徳島の砂に付加価値を付けて売ろう、というところから生まれたというのもまたすごい。地元への強い思いを感じます。
こうして世界中の名画を大型の陶板に焼き付け、原寸大で展示するという驚きの発想の美術館が、総工費400億円をかけて作られました。
大塚国際美術館のみどころ・楽しみ方
ホンモノはひとつとしてないという、ふしぎな美術館ではありますが、ここ大塚国際美術館では、本物が展示されているところでは決してできない体験をたくさんすることができます。
写真撮影可
まず、絵と一緒に写真が撮れます。
(以前は、写真を撮るときの条件として「人間が一緒に映っていること」といわれていた気がするのですが、今回行ったときは、「フラッシュと三脚使用禁止」だけがやってはいけないこととして書かれていました。)
コスプレイベントがほぼ常時開催されていて、今回もいろんなコスチュームがあちこちに用意されていました。
これはもう、ニセモノ展示でなければできない美術館の楽しみ方だと思います。
絵に触れる
陶板なので、触れます。
ゴッホの作品などは特に絵具の凹凸まで再現されているので、さわりがいがあります。
モネも絵具の物理的凹凸によって光と影を絵の中に表現しようとしていますが、モネの絵は平面のまま凹凸がないものが多かった気がします。新しく制作されたものほど精巧に複製されているのかもしれません。
絵の大きさを実感できる
私がこの美術館を好きな理由の一つがこの「原寸大」というところです。
美術の教科書や画集では、大きなサイズの絵も小さなサイズの作品も同じくらいのサイズに縮小されて並んでいます。
フェルメールの作品の小ささや、ピカソのゲルニカの大きさを体感できるのは、本物ではないとは言えども、なかなか貴重な体験です。
絵をふちどる額縁にも注目です。作品がつくられた時代背景なども考慮されて制作されているそうで、額縁も含めての作品鑑賞を楽しめます。
環境展示
遺跡や壁画など、本来であれば現地に行かなければ見ることのできない美術作品が、その空間ごと再現されています。
米津玄師が紅白で歌う会場となった「システィーナ・ホール」は、バチカン市国のシスティーナ礼拝堂を再現したもの。
ミケランジェロの「天地創造」や「最後の審判」を鑑賞することができます。
なんとも圧倒されました。
青の天井が美しいスクロヴェーニ礼拝堂も再現されています。
現存しない作品も見られる
戦争や天災で破壊・焼失してしまった作品も複製され展示されています。
エル・グレコの祭壇衝立。
ナポレオン戦争で破壊されたのち、各地に散り散りになってしまったものが推定復元されています。
額縁も含め、祭壇ごと推定復元されたもの。本当はもう1枚多かったという説もあるのだとか。
ほかにも、レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の修復前・修復後が向かい合って展示されたスペースも圧巻です。
修復前。
修復後。
現地に行って私が見たのは20年以上前、修復前のものでした。見学客も多く、照明も暗くて、よく見えなかったのを覚えています。こうして、どのように修復されたのかを間近で細部まで確認できるのは(複製とはいえ)とても楽しい。
オリジナリティのあるテーマ展示
フィンセント・ファン・ゴッホが描いた花瓶のあるヒマワリ画7枚が並べて展示されています。
実はこのうちの1枚は戦禍により焼失してしまったので、現存しません。
現存している作品も個人蔵のものがあったりと、ひとつの場所に勢ぞろいすることは不可能な作品たちが、こうしてひとつところに並んでいるのを鑑賞できるのは価値のあることです。
極限まで近づける
展示物に近づいてみると、陶板なのでやはり「本物ではない」感があります。
しかし、作品自体にぎりぎりまで寄れるので、細部を見てみたい作品があると興奮します。
たとえばこの、ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻像」。
ふたりのあいだに見える壁の凸面鏡の上には、「ヤン・ファン・エイクここにありき」という署名があり、凸面鏡の奥の奥には画家本人が描かれています。
ぐーっと近づいて、寄って見れます。
こうした複雑な構造を持った作品に、近づいてじっくり見れるのは、複製画ならではです。
こうして近づくと、陶板らしい色抜けも見えるわけですが、こうして複製画を見ることで、本物を見る日が楽しみにもなるのです。
休憩スペースも多くあります
この美術館、たくさんの展示作品があり、敷地も広大なため、全部見て歩くと、なんと距離にして4キロあるそうです。
休憩しながら鑑賞しないと、疲れる上に、美術作品の多さに酔ってしまいそうです。
地下2階のモネの庭そばのカフェでケーキセットをいただきました。
ホットのコーヒーと紅茶はポットでサーブされます。2杯分楽しめるのが嬉しい。
ミュージアムショップは小さめ
ミュージアムショップの目玉は、小さな陶板の額縁です。
3000円ほどで、額縁付きの陶板画が買えます。
もうひとつ狙っていたのが、ムンクの和三盆落雁でしたが、数量限定で間に合わず。残念です。
とにかく展示作品が多く、全部をまんべんなく見ようとすると疲れてしまうので、自分の中でテーマを決めて、楽しみ方を工夫するのがよいと思います。
広島から大塚国際美術館までの所要時間
車で瀬戸大橋経由で行くと、のんびり休憩を取りながら行っても3時間半~4時間で到着可能です。
新幹線利用だと、新神戸駅から徳島駅行きのバスに乗り換えて、こちらも約3時間半。
ひとりだと交通費がかなりかさみますが、バスツアーを利用すればコスパ高。
Yahooトラベルで見てみると、広島からも複数の日帰りバスツアーが出ています。